Le cantique de Noël (2)  


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Les Anges dans nos Campagnes
(賛美歌 106番、荒野の果てに )

Les anges dans nos campagnes
Ont entonné l’hymne des cieux,
Et l’écho de nos montagnes
Redit ce chant mélodieux

Gloria in excelsis Deo (bis)


Bergers, pour qui cette fête?
Quel est l’objet de tous ces chants?
Quel vainqueur, quelle conquête
Mérite ces cris triomphants

Gloria in excelsis Deo (bis)


Ils annoncent la naissance
Du libérateur d’Israël
Et pleins de reconnaissance
Chantent en ce jour solennel

Gloria in excelsis Deo (bis)


Cherchons tous l’heureux village
Qui l’a vu naître sous ses toits
Offrons-lui le tendre hommage
Et de nos cœurs et de nos voix

Gloria in excelsis Deo (bis)


Bergers, quittez vos retraites,
Unissez-vous à leurs concerts,
Et que vos tendres musettes
Fassent retenir les airs

Gloria in excelsis Deo (bis)


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気配がしたと思ったら、柔らかく首に細い腕が絡んで暖かくて甘い吐息がかかる。
俺の奏でるピアノに合わせ、独特の節回しにのせて、恵はルフランする斉唱部分を唄っているのだ。

「グローオぅ オゥオー オー  オゥオゥオー オゥ オーリア イン  エクちぇルシスでーオ〜 」

旋律に身体を揺蕩わせがら唄っている恵は、まるで天使みたいだ、と思った。



「起きたのか?
 うたた寝して、冗談じゃなく風邪引き込むぞ」

そのまま、軽く引き寄せておでこに口付けて、照れ隠しに同じ位置をかるく指で弾いた。
案の上、恵は額を擦りながら、口を尖らせて訴える。
そんな顔しても、この頃のこいつは男の俺の気を惹くだけの甘い気配を漂わす。
のだめのくせに・・・・と心の中でぼやきつつ、それが結構嬉しいのが男ってもののサガだからしかたない。
今日の恵は、俺の贈ったハートのルビーのペンダントにフード付きの真っ白なニットのワンピース、そして指には日本で俺が自分から嵌めてやった指輪がツリーの電飾で煌いている。モコモコ起毛した布地は肌触り良く、思いの他、丈が短い服は、のだめの柔らかそうな胸元だけじゃなく、すんなり伸びた形の良い脚の方も強調して、俺にとっては嬉しいけど厄介な代物だった。
「えっと、先輩のおっしゃりたいことは、そですね.....
 おまえもピアニストなら、体調管理が大切なことくらい解ってるだろ?
 .....とかじゃないですか? もちろん、のだめだって解っちゃいるんです。
 けど、なんだか この頃どうしようもなく眠くなることが多くて」

「体調・・・大丈夫なのか? ほんとにおまえって奴は....
 お願いだからあんま、無茶すんなよな。
 俺...さっき、正直 焦った。
 気配はあるのに、おまえの姿が見えなくて……」

「ハゥン、シンイチくん……そんなこと言ってくれるなんて嬉しいデス。
 でも、シンイチくんのピアノで賛美歌が聞けるなんて
 のだめにとって究極のクリスマスプレゼントですネ♪」

頬をばら色に染めたこいつは尻尾でもあったら、ビュンビュン音がなりそうなくらい勢いつけて振ってそうなくらい喜びを隠そうともしない。
思わずこっちまで頬が熱くなって来てしまって、またしても、してやられた事に気づく俺である。
何でもストレートに口に出すってのは最強の攻撃で、自分には出来ない仕業に俺は舌を巻くしかない。
防ぎ切れないのは判り切っているので、俺は何とか、俺様らしく威厳を保ち応戦に転じた。

「この曲のこと……おまえ、憶えてるか?」

俺は訊いてみる。
こう言えば、多分、こいつは解るだろう。
俺と同じで音楽がすべての奴だ。
記憶は音色とともに色鮮やかに仕舞われ、甦り、思い起こされるはず・・・・
だが、案外、とてつもなく薄情なとこもあるから、綺麗さっぱり忘れ去ってるなんてことも・・・

「もちろんデス。
 初めてノエルにシンイチくんのピアノを独り占めして聴いた夜デス。
 もったいなくて、のだめが忘れるはずないじゃないですか。
 やっぱりコーラス部分だけでも歌詞はフランス語がいいです。
 Gloria in excelsis Deo、天におわす神に栄光あれって先輩っぽいから」

「そうか?」

「そですよ、それに初めて弾いて貰った時は怪我してて神経も高ぶってて
 先輩も眉間に皺寄ってたから、お仕置きのテーマかと思いました」

「何なんだ、それは?」

「ああ、先輩は海外育ちだし知りませんよね。
 pppぷ、でも日本にいたとしても、きっと見ませんね必殺シリーズなんて
 弱気を挫く大江戸の裏社会のテーマ曲だったんです、この曲 」

「なんか知らないけど、相変わらずマニアックだな、おまえは。
 もう、いいからこっち来い 」

俺は自分の座っていた椅子から横にずれて、半分のスペースをあけた。
素直にとことこ歩いて来て、ストンと座ろうするのだめを抱き上げ、膝の上に乗せて後ろから羽交いにして、髪に顔を埋める。

「ごめんなさいデス。
 今年こそ、ちゃんとシンイチくんをクリスマスの用意の出来てる部屋にお迎えしようと思ったのに」

「おまえ……」

擽ったそうにして身を捩り、俺の腕の縛いましめを解いた恵がまっすぐ、俺の目を見詰める。
のだめの見開かれた瞳に俺だけがいっぱいに映り込んだ。 その瞬間、俺の心は一気に全部、こいつに持ってかれ何も考えられなくなる。
キラキラと輝く瞳のこっくりとしたココア色の甘さに満たされて、癒されて。
幸せに包まれ、俺の気分は、ノエルのイルミネーションにも劣らず輝いて派手に爆ぜた。
いつのまにか、俺の腕はのだめを抱きしめていた。
胸の中でくぐもって聞こえる、恵の声。。。

「先輩……おかえりなさい
 ……のだめ、ノエルを一緒に過ごせて嬉しいデス」

自然と緩んだ顔と不覚にも滲みそうになる涙、こんな顔をのだめに見られてなるもんかと思う。
さらに力を籠めてのだめを抱きしめて、小さな声で言った。

「そんなこと、期待して無いから、安心しろ……それより……」

「?」

「ぁっ・・のさ、、、
 ……俺たち、結婚しないか? 」

「ほぇ〜? っ!!
 はぎゃっ、、、」

腕の中でつむじ風が起こり、パニクったのだめが暴れているのを力で抑え込む。
今、こいつに顔見られたら、まじでヤバイ。
指輪を買ってやって、義務は果たしたと思ってた。
のだめの必要条件は満たされて、俺はその時が来るまで安泰で、ひたすら音楽に打ち込んで経済的な生活基盤築けばいいと思ったんだ、本当に。。。
「考え直す暇もなく、初めてのオペラを演奏し終えた高揚感とともに将来の約束なんてするんじゃなかった」なんて時々思いながら日々を過ごせる、俺はそのままでも充分居心地良いのに、なんて思うだろうなんて、どうして思ったんだろう?
自分のことなのに解ってなかった俺……まさか、こんな気持ちになるなんて本当に見通しが甘かった。
今となってみれば、秋にマルレの定演とオーストラリアのシュトレーゼマンの演奏旅行に付き添う合間に一人で野田家に行き、意思表示をして許可を貰っていることだけが救いだ。
それも情けないことに、母さんの忠告があったからで、自分ではもっと先でもいいと思っていたのだ。
あの時、「いずれ近い将来」口を濁した言い方をした俺に、向こうの両親はただ頷き、「恵をよろしくお願いします」と言ってくれたのだ。

撫ぜ心地の良い、のだめの細い髪を指先で梳きながら、抵抗を繰り返すのだめの耳元に囁く。
もちろん、感じやすい恵の耳のスポットに吐息をそっと吹きかけることは忘れない。
千秋真一だって、やる時は手段を選らばないわけで。
こんなところまで、俺さまを追い詰めた世界中で一番可愛らしくて貴重なティルの皮はこの俺が剥がなくっちゃ、他の男に持ってかれて堪るかってとこだ。

「のだめ、おまえはどこに行っても俺がおまえの元に帰ってくるって約束が欲しいって言ったよな?
 俺の方もそれが欲しいって、思った……今頃って母さんに笑われるだろうけど。
 俺、結婚ってゴールみたいに考えてたけど、そうじゃないって解ったからサ。
 婚約も約束だけど、結婚自体も、二人でいろんなものを分かち合うって約束だってことで大差ないだろ?
 いや、もう…… 俺たちの音楽が別れられないから、実質、その……
 ...つまり、そういうこと・・・だ」

腕の中が静かになった。
嵐が去ったのか、嵐の前の静けさか、どっちだ。
そうしたら、嵐の真っ只中の台風の目にいるのだめが、俺の胸板から息継ぎに必死に顔を出した。

「シンイチくん、酔っ払いサンじゃないですよね?」

すでに零れ落ちそうに大きな瞳をたっぷり潤ませながら、真剣な顔でのだめが俺に問うた。

「馬鹿、おまえいったい、何年一緒にいる?
 こんなこと冗談で言える俺かよっ 」

「・・・・・」

肝心な時は口数が少なくなり、さらに、重大な局面では沈黙するのがのだめという生き物だ。
けど、なんか言ってくれないと…… 俺だってどうしていいか、わからないだろう? この場合……


「返事…… 欲しいんだ。
 よろしく頼みます、のだめさん 」

「うぇ〜ん・・・」

「厭なのか? 」

ぶんぶんと首を振るので、髪が跳ねて、零れた涙が、きらきらと宝石みたいに飛び散った。

「駄目だよな。
 ゴールって、そんなもんないし、俺、そんなに鷹揚な性格じゃなくて
 すごく、気が短かいみたいで、この先何があるか、解らないなら
 一分でも一秒でもおまえと居る時間を逃したくないって思ったんだ。
 勝手言ってゴメン……恵 」

「・・・・・そんなこと、謝るなんて、らしくありませんよ。
 俺サマは、俺について来いって言ってくれないと調子狂いますから
 それに、何だか、夢の続きを見てるみたいデ 」

「もう、しょうがないな。
 寝惚けて夢にされちまったら、俺の努力が報われない。
 それじゃ、さっそく…… 」

俺は、恵を抱き上げて寝室に向かうことにした。




天使たちが、野辺にて 天より聖歌をうたい始めたまえり
山々は木霊によって いと甘美なるうたを繰り返す・・・・
Les anges dans nos campagnes
Ont entonné l’hymne des cieux,
Et l’écho de nos montagnes
Redit ce chant mélodieux

〜〜Gloria in excelsis Deo
    Gloria in excelsis Deo 〜〜