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〜〜 D'un ami autour d'eux à Leur ami 2 〜〜〜 まさかな…… 俺じゃなくたって、考えたことも無かろうよ。 確かに生きようとするエネルギーは、人並み外れてたけど…… 餌を頂戴、メシ、食べさせろって。 たかるばっかりの雛ほど、かしましい者はいないし。 ちゃんと、一人前にピアニストになるかだって、あんな子供じゃ怪しいものだったのに。 そうだよな、パワフルではあった。。。 アパルトマンの住人で彼女を嫌いになる奴はいないし、音楽院だって、アノ娘は友だちにいつだって囲まれて。 無邪気で明るくって、女っていうか、まだ少女時代から抜けていない穢れない魂を持った娘。 もう一人の日本人の若者に比べりゃ、何ていうか、無防備で幼くて。 この生存競争の激しい世界で、ちゃんと生き残っていけるのか、いつだって、一番気にかかってた。 アンナだって、おんなじだと思う……。 ほんとに、小さなモモンガの番いみたいに、このアパルトマンを巣にして、ぬくぬくとしてた二人。 危なっかしくても、若々しい悩みだなんて、微笑ましく見てた俺たちだった。 それなのに真一が、音楽のためにって、アノ娘を置いてアパルトマンから、出ていってしまった後のアノ娘は 表面、元気そうにしているから、余計に痛々しく見えて、 日に日に、生気が失われていく身体は風に飛ばされそうに頼りなげで、必死に風に向かって負けまいと踏ん張ってたアノ娘。 ああいうのを一途とか、健気っていうんだろうな・・・ 音楽だって、生命エネルギーがなきゃ、ちゃんと鳴らないし、 大気を媒体にして伝える為には、まず心が籠らなきゃならないだろう。 「餌くれ〜 ミミズくれ〜 って、ぴーぴー泣いてた、醜い家鴨の子がだよ。 あんなふうに大それた事をしでかすとは、世の中、わかんねぇもんだよな? 雅之よ、おまえが父親してやんなかった、真一の坊やは、どうやらとてつもない、当たり籤を引き当てたんじゃないのか 」 ―― そういや、醜い家鴨の子は白鳥だったんだよな でも 誰がノダメが、オオハクチョウになって、この蒼穹のかなたに羽ばたいてちまうって、予想出来たってんだ。 彼はブチブチと独りごちながら、キャンバスの五分の四を占める壁の上に、灰色の痩せたピジョンを載せた。 まるで締められたように首をクイと上げて、目を丸く書き入れた。 空から見えない糸で吊られているように見える、その灰色の塊りは、無邪気に何を考えているのか解らない。 「ノダメは、この先に何が待ってるのか、考えてんのかねぇ。 まっ なるようにしかならないってことは、雅之と征子の件から、俺も学んじゃったしな 」 首を竦めながら、投げやりに白の絵具を塗りたくる。 陽に光る、鳩の羽に羽毛らしいグラデーションを入れ、軽やかにみせようとしたのだが、どうもうまくいかない。 「これじゃ、餌、食べ過ぎたデブ鳩だ。 鳩も肥満になると、空、飛べないんだろうなぁ…… あっ そーだ!」 何を思い立ったか、また、灰色の絵具を塗り重ねる。 「なかなか、いいんじゃないかぁ〜」 長田の前のキャンバスには、来るべき運命に懸命に羽を膨らませて威嚇する、小さな生命の精一杯の姿が描きだされていた。 「迷って、踏ん張って、どこまでも行ってみろ。 まだまだ、大丈夫だから。 目的がないってのはな、いくら儲けようとか計算する必要のない青春真っただ中にいる者だけが出来る賭け。 でも、真剣勝負なんだよな、コレってのはな。 目的を見つけに冒険するってのが、まさに青い鳥を探しに行く男女の話さね 」 __って見りゃ、このピジョンだって青い鳥なんだろうよ 長田は最後は、自分の胸に問いかけたのであった。 こうして、過ごすアパルトマンの部屋は日溜まりが出来て暖かい。 もうすぐ、アンナが多目に作ったとか言ってランチをもってきてくれるはずだ。 絶対的な基準から言うと、清く貧しく美しくに近い自分の生活だが、考えようによっちゃ、自分は此処に居ながらにして、青い鳥なんか向こうから軒下に飛んでくるんだから、幸せなもんじゃぁないか、と思う長田なのである。 今日は夏の空にしては、上昇気流も立ち上がる雲も無く、空は只管、ぬけるように青かった。 そう、今日の夕日は見事だろう。 マロニエの木立に生える夕焼けを約束しているような空を見上げ、長田は眩しそうに目を瞑るのだった。
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