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〜〜 D'un ami autour d'eux à Leur ami 3 〜〜〜 謹啓 義兄殿 そちらでは如何お過ごしですか? 日本で伝え聞く情報…… と言っても ここ、大川ではインターネットが唯一世界と繋がる扉であることは 義兄さんも想像に難くないと思います。 そちらでの義兄さんの常任指揮者就任の話とか、世界でご活躍の様子は、 義兄さんの若さとイケメン度……もとい、突出した才能と人望から、全国区でもって、こちらでも一挙手一投足が報じられてます。 姉は、そんな義兄さんの足を引っ張ってはいないでしょうか? 家の者は、そんなこつ、よっくんの取り越し苦労ばいっていうもんで、僕は余計に心配になったりするんです。 もちろん、姉はああ見えても、自分の生きざまで他人さまをどうこうしようという気はないんです。 ないんですが、結果振り回し、無意識にブン回すことは、弟の僕が経験上知っているからです。 そして、初めは振り回されることに煩わしさや、何故、自分がという戸惑いや、怒りを憶える。 つまり ! ? ドっ みたいな彼女に関しての突き貫ける激したエモーションが、慣れや諦めといった日常に流れていくのです。 すると姉ちゃんは、突然、今度は退いたり、逃げたり、気まぐれにどこかに行ってしまう。 いつのまにか、考えられないくらい接近していて、テリトリーを全部解放していた、こちらからすると、急な撤退は物足りなさを感じ、姉と言う刺激が欲しくなってしまう。 姉はすごく、厄介な…… 不治といえるくらいに強力な菌を持っているに違いないのです。 僕は千秋さんが大川に姉を迎えに来た時に、実は兜の緒を締めたのです。 何故か・・・・ それは、おそらく…… あの、天然で無防備で、 女性というより、人間以前の姉を、何とか周りから浮かせないように これまで、してきたのは僕だからです。 もちろん、家族の中にはいつだって、姉の席はあるのです。 姉は変態だとしても、野田家では、娘であり、祖父や祖母からはピアノが弾ける神童の孫であり、 僕にとっては、頼りないけれど黙っていれば、下手なアイドルばりに可愛い姉なのですから。 そんじょ、そこらの男に、姉を理解できるわけはない。 いくら、大川まで姉を追って来たとしても、若い男だ。 一時の気の迷いもあるだろうと・・・・ 僕は思っていたのです。 **************************************** けれど、義兄さん。 僕は貴方を見た瞬間に、何故か、この人になら姉を任せてもいい、と思いました。 恋人同志であることを否定しながらも、 貴方は、真剣で親身でした。 その漆黒の美しく輝く瞳は熱意に満ちて・・・・・ 姉にただ一つの才能であるピアノを続けさせようと必死でした。 口でどう言おうと、 その目は赤くて、すでに姉の菌にどっぷり、浸かって、それでいいと覚悟を決めている様子が窺えたからです。 ああ、この人は姉のピアノを心から愛しているんだと思いました。 姉のピアノは、姉の魂…… これまで生きて来た全てが籠っているものなのです。 だから、姉のピアノに魅かれるヒトが、姉に悪いことをするはずはない、僕は……僕たちは信じました。 音楽とか、ましてやピアノの才能なんて、目に見えるものではないし、 ましてや、おまんまの種になるほど、成長するのは、至難の業というか、奇蹟に近いってことは 能天気な家族の中で、父 辰男と僕くらいしか理解してはいなかった。 それでも…… 父と僕は、すでに芯の芯まで、姉の菌に侵されて 姉が幸せに笑っていられるなら、かなりのリスクを背負ってだって、やらせてやりたいと思ったのです。 姉は何もできません。 けど、その分はピアノが…… そのピアノの響きと同じくらい、まっすぐで明るくて 心の中まで透き通って来る、彼女の純粋さが、充分にそれをカバーしてくれるでしょう。 結局、姉は誰からも愛される、星のもとに生まれているんだと僕は思うのです。 姉のピアノのデビューをネットで見ました。 気になるのは、大川の家族に彼女が便りをしないこと。 いえ、エアメールとか、近況報告を期待してはいない家族です。 けれど、姉は・・・・ ひどく嬉しいことがあったり、もうギリギリのところまで、落ち込むと家族のところを頼って来た。 それなのに、今度は…… こんな大それた場所で、大好きなピアノを披露出来て、姉にとって嬉しくなかろうはずがないもん。 それなのに…… 義兄殿、貴方だけが僕の頼みの綱です。 どうぞ、姉を…… 姉の暴走をとめ、姉が穏やかににこにこと異国の地ではありますが、 義兄さんの傍で暮らせるように…… 姉の笑顔を護ってやってください。 くれぐれも、ヨロシクお願い申し上げます。 佳孝より *************** 博多の街まで、所用があって出て来た。 今朝、久々にフランスのあのヒトのもとにエアメールを送った。 図々し過ぎただろうか? 口にすれば、「義兄さん」なんて簡単に言えるのだけれど、きっと本当に姉が彼と結婚したら、 「義兄さん」とは言えなくなるだろうな。 野田家のものは、結構、照れ屋だから、冗談めかして言える言葉も本番には口に出来なかったりする。 軽々しいくせに、急に真顔になってしまう、変な癖だろうもん。 駅から降りたところ、繁華街の入り口で、流しのギター引きがクラッシックのメドレーをアレンジしてやっていた。 取り立てて上手くも下手でも無い、妙に生活に滲んだ音が、眼を眩ますネオンの光とともに不安を掻き立て、 何故か、泣きたくなるような感傷的な気分になるのだった。
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