たまごの茹で加減1 (Bébéちゃんとぺいぺーのmélodie)




「はう〜ん....... 朝からご馳走デス、シンイチくん。
 何か嬉しいことでもあたデスか? 」

「別に…… 料理ともいえねぇ、春野菜のシーザーズサラダだ。
 野菜不足になるとブスが促進されるからなっ
 食い止めておかネぇと売れなくなるし。
 おまえも卒演、頑張ってるみたいだから、その・・・なんだ……」

「いいんですよ、
 恵はもう、千秋先輩に売れてますから、売れ残りの心配はありませんし……
 あの赤い厭〜な味のトのつくヤツが入ってないとこがオットの愛を感じます♪」

まったく、朝から大口開けて、良く食うよな、コイツ・・・・
俺が餌を与えだしてから、ほとんどといっていいほど、コイツの食欲は衰えをみせない。
こんなに食べても、太らないところが、それだけピアノにエネルギーを向けてるってことなのかと今更ながらに思う。
女としての色気もへったくれもないから、普通の男ならとっくに、逃げてる。
そう・・・・ついに、のだめも最終学年の最後の学期を迎えている。
コイツがあのシュトレーゼマンとの衝撃デビューを飾った1年目の終わり……秋には2度目のサンマロ、ブノア城のソロ・リサイタルをこなし、余韻に浸る暇も無く、師であるシャルル・オクレールの意向に沿って、ロン=ティボー国際コンクール ピアノ部門にエントリーし、見事ファイナリストに残り、優勝の栄冠を手にすると、勢いを得た魚の如く今学期早々、のだめはエリザベート王妃国際音楽コンクールのピアノ部門でも最優秀賞を受けた。
コンセルヴァトワールでの最終学年後期の成績も今まで聞いた話では、評価はすべてにおいて 「Très bien」がついていて、学年で選りすぐりの生徒だけが出演する卒業演奏会にも出演が決まっているのだ。

もちろん、俺は誰よりも、コイツの音楽的才能を信じてはいた。
だが、大川にコイツを迎えに行った時点で、ここまでの鴻才が、あの華奢な時にホタル化するのだめの内に眠っていたとは思わなかったのだ。
正直、同じ音楽家として、茫然とするくらい、想定外のスケールで斬新で魅力的な音色を奏でられると、足元を掬われて自分の自信が揺らぎ始めるから癪に障る。
だがもはや、こういう事も俺たちの間では、日常茶飯事と化したようで、俺は心の中で負けを素直に受け入れた上で、さらにのだめに目にモノを見せてやると言うコイツ曰く「カズオパワー」で、その凝縮された焦りともいえる熱さを次の演奏に注力してリベンジを誓うようになった。これはのだめも同じで、嫉妬とか羨みとかいう、間違うとどうしても負の方向に行ってしまう感情をうまくコントロール出来るように、次の演奏、ゴールデンコンビの夢の実現へ変える術を身に付けたようだ。

とにかく俺の方には、その上に惚れた弱みであり、うっとりと己が見出したコイツの音楽に身を漂わせ、一段落してから、刺激された五感から、自分なりにまたその上を目指し始めるのだ。
つまり、俺はのだめという宝がある限り、どこまでも上を目指せるという、一蓮托生ともいえる運に恵まれた環境にあって。。。


「恵」は真実、俺への神への恵であって……
他の男に取られないように、早いところ、野田 恵から、「千秋 恵」にしてしまおうと、思うのは別にスケベな師匠に急かされなくても、常に意識していることなんだ。

千秋 恵・・・・   
コイツと過ごす、千の秋…… 
実りの秋は別に季節の秋じゃなくて、音楽の収穫期のことをさすんだと思えば、
「恵」さえ手離さなければ、俺は……俺たち二人はこれから沢山の果実を手にすることが出来るはずだ。

だから、俺が今出来ること。
あまり口うるさくしないで、のだめがその翼をどこまでも拡げ、空の彼方へと羽ばたくのを見守るだけ。
自分だって、ぴったり、コイツについて行けるように、あるトコロは支えられるだけの力をつけるために
いつだって、自分の翼を鍛えてるつもりだから。

恵…… 
おまえが本気で助けを求めた時は、誰よりも速く、そこに行けるように、
いつだって計算づくで、準備は粘着気質でぬかりなく・・・だな・・・・



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アへ〜~

シェンパイがお口をへの字に曲げて考え込んでます。
黒王子モード突入?

こういう時の先輩は自己陶酔の真っただ中ですから、つかず離れず、ツマとしてはですね。
そろっと、コソっとしているに限ります。

えっと、アレ、今日はエスプレッソじゃないんですねぇ。
そだ、そう言えば……

のだめはキッチンに飛び込んで、昨日買ってきた、凄く濃厚で美味しいヨーグルトに近いナチュラルチーズとヨーダの奥さま、ヴィヴィアンヌ特製のコンフィツパンプルムッスを小さなカクテルグラスに用意する。

ほえーー、盛っただけなのにすごく美味しそうデス。
さすがヨーダの奥さまの呪文デザート。
何だか、千秋先輩に出すのやめて、のだめが食べたくなっちゃいました。

プルンプルンと首を振りながら、のだめは思い出す。

「メグメグ、あのねぇ」
ヨーダの奥さまもヨーダ同様、魔法が使えるみたいなんです。そして、のだめのことをメグメグと呼びます。
ちょっと変だと思ったけど、ダメダメって呼ばれるよりましなので、のだめ、ぐっと堪えましたヨ。
のだめもほんと、大人の女に・・・我慢強くなりましたねぇ……
先輩に泣かされても、良妻でいようと努力した成果デスっ  ムン!

トンと先輩の横にグラスを置くのと同時に、掛け声が出てしまったみたいです。

「!?  なんなんだ、コレ・・・・」

恐る恐るという感じで先輩が不信感も露わに、身を引きました。
じっと、グラスの中の白いものを見ています。

「ヴィヴィアン・・・・マダム・ヴィヴィアンヌ・オクレール。
 ヨーダの奥さまですよ。今、話題の人気パティシエールなんデス。
 手軽で身体に良いレシピでデザートをって、ほんとに良い方なんです 」

「ふーん、これ…… ヨーグルトか?」

「食べてみてクダサイ。
 コイツがノルマンディの農家に受託して作ってる乳清を発酵したてのフレッシュチーズと混ぜて作った、身体に良い食べ物です。
 上に乗ってるのは、グレープフルーツの甘露煮です! もちろん、マダム特製で分けて貰ったものデス」

「そっか、おまえが作ったんじゃないなら、頂こうか」

ヴィヴィから習った高尚な講釈を先輩にしてみるとますます、彼は狸にばかされているんじゃないかって目付きになった。
ふん、のだめの場合は狸じゃなくて、マングースですから・・・アレ、これって自慢でもなんでもないような・・・
次の瞬間、覚悟を決めたみたいに、パッと、スプーンを取り上げ、デザートは一気に三分の一くらい先輩の口の中。
ぞんざいに食べているようで、シンイチくんって何て綺麗に食べるんだろう。
いつまでも見てたいくらいデス。。。。
ズルイです・・・これ以上、のだめを擒にしないでくださいヨ。

「お♪ なかなかいけるな。
 甘くないし、すっきりしてる 」

「失礼です! シンイチくん。 ヒトの気も知らないで。
 のだめはセンパイが、こむずかしい顔ばっかしとっと、ストレスで胃をやられて癌にでもなんないかって
 心配してんデス・・・・」

クルリっと、向きを変えるとクリーム色のサーキュラースカートの裾が翻った。
のだめは部屋から出て、ピアノさんに話を聴いて貰おうと駈け出そうとしたんですが、
先輩の腕があっと言う間に延びて来て……
やっぱり、先輩は運動神経がいいですねぇ。
がっしりした胸に抱きしめられて、のだめ、久々に先輩のコロンの匂いと、昨日のお風呂の残り香……
ラックス、しゅーぱーりっちっ なセレブイ匂いをいっぱいいっぱい、嗅ぎ溜めするくらい、存分に吸い込みました。

とたんに、くら〜っと来て、はふ〜んってしてる間に

先輩の引きしまった唇がのだめの口元を覆い、人工呼吸された? みたいな……
のだめ、具合が悪いのかな……
貧血……   世の中は夢の中で幕が閉まり、ゆらゆらと朝から、またのだめはベッドに逆戻りして……