書簡1 (御挨拶 M.Y. >>>M.S.)




こんにちは。御機嫌は如何ですか?
貴方の日本滞在が長引いていると聞き、日本のこの季節、梅雨というものが心身に与える害を知っている私はお加減でも悪いのかと心配になりました。
笑止千万とお思いになられるかも知れませんが、此処に来て 私はどうしても貴方に、ご相談せねばならぬ状況に 陥っているのです。
そして敢えてここに記す必要もないのですが、 フランツ、私は貴方にお詫びしなくてはならないと、思っています。

なのでお願いです。

どうぞ、この手紙で洟をかんで丸めてポイとか、
用足しした後、手拭きにしてごそっと破り棄てるとか、することだけは、ご勘弁下さい。

手紙を認めるにあたっては、貴方の事務所のちょっと怖いマネージャーさんに、連絡先をお聞きしました。
私の目下の心配の種である生徒や貴方の素敵なお弟子さんも所属する事務所ですから、私も彼女とは懇意にしなければならないと思っております。

電話とか、電子メールでも思いは伝えられる…… と考えましたが、どうも私は古い人間でして。
内容については、とてもデリケートな問題ですので、貴方のツヤツヤなお顔を拝顔しながらお話ししたいと思います。
そう・・・私は不思議に思うのですよ。
貴方はまだ男の色気も情熱も失っておらず、
まだまだ、若いヒトたちと伍して、自分の音楽の道を昇っています。
その真面目さとバランスをとるために、わざと無茶苦茶な生活を好み、
活力を衰えさせぬよう、貴方流の計算をしているように……
ふふふ、貴方が通う日本の私立音大の校長は、大昔の愛しのアノ方だと聞いています。
忘れないで下さい。 私も彼女とは縁もゆかりもない者ではないってことを……
私の最愛の者はどうしてか、貴方の人生に関わるのを運命づけられているようです。

多少時を経て、生きる術や音楽の技量を身に付けた私たちです。
今度も過去と同じく、あるいは過去よりもうまく、一緒にこの局面を乗り切れるんじゃないかって
フランツ、今、私は戸惑うと同時に驚いています。
心の中の私は、貴方とまた道が交わること、
厭では無くて、むしろ、歓迎している……

あり得ないと思いながら、これが現実なんですねぇ。
神様も粋なことをされるじゃ、ありませんか?

そう、いっつも忘れそうになりますが、私こそが陽気なパリジャンで、
貴方は本来、お堅くて融通のきかないドイツの方の中で育ち、
おまけに仕来たりだらけの名家に生まれたんでしすよ。まったくのところは……

フランツ、 それでは、日本でお会いしましょう!