and then, her world which faded and lost a color   
   無彩色な世界は味気なく、それは戦場よりも怖ろしく・・・・。


夜のしじまに入る前のアポロンの火車が天上の門に入る直前の天使が角笛を鳴らす時刻……
水平線に沈もうとする太陽が本日最後にして最高の贈り物を地上に齎す。
美しい天上にも勝るアンズ色というより、コーラルピンクの夕焼けに染まる雲と穹、見事に太陽へと延びるサンロード。
潮騒のメロディは胸が痛くなるほど胸に響き、仲間たちは波間に佇みながらただ茫然とその光景を見ていた。
フランソワーズは自分の暗い場所に咲かせた自分だけの真朱まそほの薔薇が、生き残った喜びにさらに煌めきを纏ったのを知る。

目の前の夕映えの天上の穢れ無き輝きはどうだろう。
私たちの闘いを労う神の贈り物だと捉えれば、あざといほど神々しくゴージャスだ。
けれど、それは見方によれば、この美しい地球にの光景を二度と目にすることの出来ない者への思い出を呼び覚ますのだ。
プワワークの姉妹の哀しい最期や沢山の犠牲者の死に様を思い出してふと波間にのびる影の中に、いつもならすぐ傍に立つ青年の影を探した。

__ いない、まさか……

その瞬間、私のぜんまい仕掛けの時計の螺子は巻き切れ、ガラスの砂時計は割れて砂が毀れた。
世界は絶望と言う、灰色の世界に閉じ込められて、動くことを放棄した。

声を出して泣いてしまえばいい。
アルベルトは、胸を貸してくれた。

頬は海水ではない、海水と同じような塩分の生温かいものが、止まることなく流れ落ちた。
瞳から大量に休むことなく流れ続ける、体中の水分。
確かに自分は泣いていたのだ。
生命の元となる海へ、塩分を含んだ体液が零れては、広い大海の中では無かったかに等しい「ひと滴」になって、実も結ばず、波間に消えて行く。

それでも、自分は泣き声をあげてはいけないと思った。
もし、彼が、昇天して星になり、この地上の上で瞬きながら、私たちを眺めてくれるのなら、きっと私は泣き声を立ててはいけない気がした。

灰色の世界……
蟻地獄に取り込まれていく蟻になった気がする。
救いはもはや、残ってはいない。

胸に灯っていた紅の焔を立てる秘めたる薔薇は花びらを散らすこともなく、黒く朽ちて、ボスンっと首を落とした。
後に残った、腰の曲がった老人と同じシルエットを描く棘だらけの醜い体は、これからの無彩色の世界を思ってヒュウヒュウと悲しげに音を鳴らす。



どうして、自分は一度も彼の前で……皆の前で……
いいえ、その前にまっすぐにリバーシブルではない、リアルな自分に向き合って
自分の心の真実、紛うこと無き心にある想いを、素直に表現しなかったのだろうか。

仕方が無かった。
女である前に、戦士であったと、私は今、胸を張って言うことができない。

だ・か・ら、私は泣いているけど、本当の涙を流すことができないのだ。
嘘の涙をぬくいながら、私は夕映えが徐々に夕闇に取り込まれていくのを見ていた。
意識の深層に忍び込み、心を揺さぶるはずの色を感じない自分には、もはや目の前で繰り広げられる大パノラマの神秘に何の感動も覚え無い。
このような光景など、昼と夜の間に横たわる無為な時集積の他ならず……、私は歯を食いしばり、イワンのベッドを揺らす手を止め平静であるための面を被った。

モノトーンの世界で生きるには、心にある不安定な感情をすべて消し去って、その日1日を過ごすことだけを考えて暮らせばいいのだ。


ジョーが宇宙の花火になって、私は心を失った。



皆が項垂れて、海から上がる。最後にもう一度・・・・
自分は、能力など失ってもいいと自棄になって、聴力と視力の限界を越える力を解き放った。

赤く燃えて流れる、自分の心にまっすぐに向かって来る星の姿になった二人が目に入る。
神さま……
どうぞ、私の命をお取り下さい。

愚かな私は、ふたたび愚かな願いを神に届けとばかり、祈った。
顧みれば、神さまが穢れたモノを胸に隠し持った自分などをお召しになるはずが無いのに。

それでも、私は……
自分の持ち得るもののすべてを賭し、全霊を籠めて祈らずにはいられなかったのだ。

  
           
      

      

むさし様
素敵な素敵な贈り物・・・ありがとう!
お部屋の方も大掃除中です・・・次もひそかに待ってたりして・・・