Red flame which was hidden   
   SPがむさし様にお贈りした作品です。


赤、朱赤  くれなゐ、ワインに柘榴色……

肌を爪で裂きたいほどの苦しさ……
眼の裏が、暗紅色に染まり、戦場で血を流しながら絶命する兵士を見ながら、索敵する。
短い睡眠を貪る前に聴こえる彼らが絶鳴するすんでの叫び。
私は夢の中で声を失くし、屍となる彼らに手を差し伸べる暇も無く、ルビー色に輝く花びらとともに墜ちながら舞う。
堕ちて堕ちて

そうして、私は
こんな身体になる前にはあることすら知らなかった、暗い闇をじっと見る。


見ているだけだと思ったのに
いつからなのか……
それとも、元から気付かないだけだったのかもしれない。

遠くにあると思った、その闇は私の中にあったのだ。

ぽかりと開いた、そこしれぬ、濡羽色の濃い深淵を覗かせ、
入りこんだら、どこまでも引きずり込む、冷たい穴は死者の骸の眼窩のように
確かに私の中に存在した。

そこに居て、じっと獲物を狙っていたのは、裏を向いた私の姿なのだろう。
リバーシブルな自分の怖ろしいまでの、生への執着心

この世のすべてのものを腐らせ、購いに死を求める、血に飢えた私......


ああ、そうなのだ……
私は闘いが嫌いだといいながら、どこかで喜んでいたのかもしれない。

あのヒトの腕が一番に私に延ばされる。
戦禍が私に降りかからぬように、彼は身を楯にして護ってくれるから

嬉しくて、心震える私は、心に焔を灯す

それは死者への弔いであるとともに、私を暗い情熱へと誘う焔



その罪の深さゆえに、私は慄きながら、その焔を胸の奥底に大切にしまい込む

たとえ、天に召されることなく、地獄に落ちようと
すでにどこまでも堕ち、汚れてしまった自分には相応しいのだと言い聞かせながら

どんなに胸の奥が焼け焦げて、真っ黒な墨色に染まろうと
その熱さも残酷なまでの痛みも、隠し通さねば、私はここに居られなくなってしまうから。



そう、私は泣かない。
絶対に泣いてはならないのだ。

そうして、私は戦場の紅蓮の炎に照らされても、熱くなることなく冷たい頬を引き締める。
私の中にある丹精こめて、咲かせた、大輪の真朱まそほの薔薇を隠して護るために……


泣かなくても、私の中はずっと、ずっと煮え滾って、
熱くて焼けて、暗い闇が忍び出ないようにするのは、身が焦げるほど辛くて
人の死で、氷水をかけられ、打ち据えられても、さらに熾き火は紅く、
いつしか燃え広がって、身悶えするほどに



真っ暗闇で赤い戦闘服を来た私は、敵状を報告する為に能力を披き始める。
彼のマフラーが翻り、、私の目の端をよぎる。

「フランソワーズ?」

「ジョーっ
 大丈夫、敵の動きは今のところないわ」

「そうじゃなくて、君はもう休んだ方がいい…… 」

「?!
 いいえ、私は今日は当番だし、眠れないから……」

「ううん、寝られる時に寝た方がいい。
 あ、そうじゃなくて…… それが僕たちの戦力アップになるから 」

「そうよね、いざという時にレーダーやソナーが狂うのは不味いもの 」

「・・・・・もう、黙って、僕もここにいるから、交替で休もう 」

彼が黙って地面に張り付いた炭化した切り株の上に座ってマフラーを外した。
「この下に座って、僕の膝に頭をもたせればいい……」

黙って彼の言うとおりにする。
サラッとした感触が頬を撫ぜ、彼のマフラーが自分の肩先から、上半身を覆うのを感じた。

冷たい顔をした私

そっと肩を抱き寄せられた。



今日もまた……誰も知らない私の胸の奥で
赤く赤く、暗闇に閉じ込めた真朱の薔薇が、熱い焔をあげて、心を焼き尽くす……





    
           
      

       Texts SPRITE_3rd

かなり、情熱的で屈折した003です