Catchfire
なあ、のだめ……
初めておまえが、舞台の上でピアノの音の魔法で客席すべてを魅了した瞬間、
ここにいる誰より歓喜に震えた俺だ。
けど、逆上せたようになる頭の中とは別に、なぜか、胸の奥が冷たく凍え始めていた。
俺の耳に届くのは、七色にさんざめく、俺が見つけたおまえの音に違いないのに。
こうやって、舞台に載せて、のだめの素晴らしさを世間に認めさせたかったのはこの俺だったはずだ……。
マエストロ・シュトレーゼマンの指揮するオーケストラと一緒に俺の届かぬほどの高みにおまえは押し上げられていく。
そう……遥かな潮が渦を巻き、この世のものとあ思えぬ煌めきを纏ったおまえが、一気に津浪に攫われていく、その時に
俺は客席から、傍観者として見ているしかない存在だった。
嫣然とした明るい笑みを浮かべ、ピアノを奏でるおまえは、たしかにいつもののだめなのだけれど、
本当に俺の知ってるのだめなのか、眩し過ぎて解らなくなっていくみたいに思えて。
こんな輝かしい舞台にいるピアニストが、俺の恵だって思うと誇らしいくせに、胸の奥にひんやりしたものが入り込んで、独りでいるのが厭な気持ちになった。
ああ、おまえは俺のもとから飛び立ってしまったんだ、
もう、俺のもとには戻って来てくれないかもしれないって、考えが胸を過ぎった。
ゴメン
身勝手な男だな、俺……
だから、カズオなんデスよ、、、なんて言うな
一番、解ってるのは俺なんだから。
おまえさ、舞台に登場した時、ぶんむくれた肉饅みたいな顔になってたんだぞ。
こうやって、普通にしてれば、まあ見れるのに。
失礼デスって、ま、まぁ…… 可愛いよ。
たぶん、俺が見て来た中で一番……
えっ? これから、もっと可愛い娘が俺の人生に登場したら、乗り換えるのかって?
ヴぶ、馬鹿だな、おまえ……っ
おまえみたいに、変態でピアノがうまくて…… 俺に誂えてきたみたいにぴったりの奴なんて他にいるかよ。
だって、おまえはきっと、俺のために生れてきた天使なんだから……
―― それに舞台でピアノ弾いてる時のおまえは……なんていうか、光に包まれてるみたいで
―― 幽玄の世界にいる天女みたいに…… 綺麗だった
―― まぁ現実ばなれしてるってのは、いつものことなんだけど……
拙い……
これ以上、俺……口が開いてるとどんな戯れ言を喋っちまうか、わかったもんじゃない。
ワインをボトル1本、流し込んだくらいで酔ってしまう俺様じゃないんだけど、今夜はおまえに酔ってる。
疲れてるんだよ。
俺、おまえに変態、うつされちゃってからってもの、充電しないとやってけない身体になったみたいだ。
やってしまったよ、俺
後悔って先に立たずっていうけど、俺の場合はだな……
おまえを知ってから、後悔ならぬ、未知の世界の航海に漕ぎ出した帆船になった気分。
どれだけ進めるかは、風任せで、おまけに荒れ狂う波を必死に凌いで、沈没しそうだったり。
で、俺の船が帆を張る海原は、七つの海に繋がってるんだけど、そこを仕切ってる女神は変態で恵って名前だったりするわけっ
ハハハ…… 怒るなよ、そういう顔もそそられるから、やっぱ俺も仲間か?
怒るとおまえ、それじゃなくても感度いいのに、余計感じやすくなるから。
ああ、イイ…… すごく……
どうして、こんなふうに……
柔らかくて 夢みたいなさわり心地…… 味も……
この甘みは天国の果実
甘いの駄目な俺のために存在する、俺だけに赦された楽園の恵
何、勝手に決めてるのかって。
恵、煩いその口、これから喋ろうとしても、話せなくしてやるよ。
言葉が出て来ないくらい
俺だけを感じて ホラ、俺 おまえの中にいるだろ?
__ 熱くて融けそうだ……
__ 溶けておまえと一つになれるなら、それでもいいな
__ おまえは柔らかくてどこから見ても女だけれど
__ 俺の中でおまえは、女である前に……
__ 俺のもの・・・・だ・・・・
__ 俺の一部……というより、たぶん、、、
__ おまえがいなければ、俺は自分でいられなくなる
..........絶対、口に出しては言えない、言えないからこその唯一つの真実……
ふふ、火をつけたのはシンイチクンだと?
まだ、おしゃべりがやまないのか、
そっか、それなら……遠慮しないぞ
どんな音楽家がおまえの音を望もうと、おまえとゴールデンペアになるのは俺だ。
舞台の上ではもちろんだけど……
寝室でおまえに身を添わせ、素肌を味わう幸運を与えられたのは、
金輪際、この俺だけだと、神さまが決めたんだって、憶えておけよ。
他のことは、忘れても迷っても、どうでもいいけど、これだけは忘れるな。
だから、熱く……
今夜は俺の焼印をおまえに押しつけて……
馬鹿でも変態でも、絶対に忘れないように、俺がしてやるから。
言葉で言えない分、俺の焔は怖いくらいに燃え盛り、今夜の褥でもおまえを飲み込んで、一つに溶け合う身体にやっと、「ふつう」を取り戻したのだった。
Back
|